2015年3月29日日曜日

沈黙にて


逢魔が時
縄文の木を眺めて抱く
黄梁一炊の夢

ご先祖様がはじめてこの大地に
足を踏み入れたとき
かつてここには戦いがあった
流離いを終えて 人が人として生きられるための戦い
血と泪が土に滲み
祈りと畏敬がそこに残った

鳥は光を渡り
魚は闇をくぐり
人は火を囲み
共に愛と祈りの旋律を奏でた

――地球は何回まわったか
土に滲みた血も泪も祈りも忘れて土に触れる者たちに
私たちは手懐けられるだろう
     流浪を強いられるだろう
永遠の谷川の音と祈りを涸らしてゆく人知の愚かさよ
この惑星は故郷ではなかったか――

――逢魔が時の空に
邯鄲の夢は産声と共に還ってゆく
縄文の木が 泪を落とす
私の頭にぽつりと落ちる
私の泪が土に滲みる





深々とした雪のなか
お薬師様が祀られているお堂へ向かう私のことを
鹿は 木は 山は 見つめていた

古い小さなお堂の横には大きな針葉樹と石燈籠
背後には大きな岩があり
その上にお不動様が鎮座して居られる
これらは皆 いつからここに居られるのだろう

小さな銅鑼を鳴らし        手を合わせる

風が銅鑼の音を拾い
      雪を宝石のように舞い上げながら
                  遠くの峰まで運んでゆく

私から言葉が消える――


遠くを見遣ると 鹿が二頭 こちらを見つめている

(ここには言葉など存在しない
 私を見つめる 視線があるのみ)

その夜私は 大岩の上の熊と
満天の星空が婚礼をあげる夢を見た





声が一つ 俺に飛び込む
無意識に 泪が溢れ出る
山を霞めるこの靄は 俺の記憶か
道端で泣いているスズランの花は 昔の俺か
胸がぽっかりと空いたその瞬間
勢いよく風が吹き 日の出が虹彩を突き刺した
俺の身体が燃えてゆく
一本の枯草のように 無力に 焼かれてゆく
太陽がたぎり昇る
記憶が焼かれて叫んでいる 幼い俺が燃えながら叫んでいる
そして今こうして鼓動しながら焼かれて叫んでいる
言葉は絶えた
おまえは劫火につつまれ叫ぶ 失いがちに
聞け!おまえの叫びに皆がたぎる!
俺たちはひとつの共鳴箱のなか
響きあう共鳴体
俺たちはひとつの大きな目のなか
見つめあう水晶体
俺とおまえは響きあう 見つめあう
俺とおまえはここにいる
曙のなか


(Kohsuke)