2016年10月28日金曜日

木曜日

メールが来た

 集合時間:お好きな時に
 持ち物:飲めない酒と嫌いな詩集

ある時は図書館で、
またある時は公園の芝生に寝転んでいる。
定食屋で唐揚げ定食を平らげてから
パーティにぴったりの場所がないか探しに行く。
「さっきの唐揚げ、鶏何匹分なんだろうね」なんて話しをながら。
そして落ち着ける場所が見つかると、誰かが音楽を流し始め、
パーティが始まる。

あの時初めて聴いた曲は
今ではお気に入りの一曲。
あの時飲めなかったお酒だって、
気づくと自分で買って飲んでいたりする。
嫌いな詩集が気になる詩集になるかもしれない。

何を話すでなく、ただ心地よい気分だけがその場に漂う。
ふと誰かが詩を読み始める
するとまた誰かが詩を読み始める
手持ちの詩がなくなると
今度は自分たちで詩を作り始める
言葉をかき集め、
イメージを絞り出して、
声に出す。
偶然が偶然を呼んで、言葉の鎖がつながる
ぎこちないけれど不思議な世界。
気づけば終電間近
出しそびれた言葉はポケットにしまっておく。

また来週、出してみよう。


L
(2016年の春頃)

2016年10月9日日曜日

疲れ知らずの若者たちが煙草に火を灯し
生クリームの味がすると笑っている
煙の向こうにおおきな湖
四日続きの雨に
鉛色の水面を走る鳶の影が揺れる

湖畔で一匹の河童が肩を落としている
皿は雨水で一杯なのに
若者たちは煙越しに彼の甲羅の模様を眺めていた

石を詰めた甲羅を背負い河童は足を踏み出した

その足下にはしなびたきゅうり




(おかゆ)

2016年10月8日土曜日

味蕾元素科学展示館へようこそ

本日、館内ライドの操縦を担当いたしますは、
core i 12 搭載のアカシックコントロール。
お座席のベルトをしっかりお締めください。

みなさまの正面に見えて参りますは、
当社の新製品 2Dコンバーター。
スキャンした3D料理情報を
全て2Dディスクに圧縮。
10TBを越える種類の料理が1ケースに。
古来より連盟に加盟しているディスク職人が
あなたの学校でも職場でも、
あなたの気分に応じて高速でディスクを探しだしてくれます。
もちろん復元は、当社のギガクロウェーブでお手軽に。

進んでみなさまの向かって左手は、
ハイドロ-オキシジェンボックス。
みなさまの食卓に新鮮なままあがるように
鮭を切り身のまま泳がせております。

「ママ!ねぇ見て!
あの切り身、沈んでるよ!」

「あらあら、その切り身、死んじゃったのね…。」

「えーそうなんだーふーん…。」

「そういうときはね。手を合わせてこう言うのよ…。
生身だ物… 生身だもの…」



(キョンシー)

2016年10月7日金曜日

出会い

ベッドから出て 顔を洗う
鏡に写った よく知っている顔は
私ではない。

コンシーラー ファンデーション
マスカラ カラコン
卑屈さと弱さの匂いをコーティングする香水

よし、おはよう、私。

「友達とランチしてきた♡」
料理なんかほとんど写ってない写真
洗練された角度 ゆで卵みたいな肌は、生ではない。
声のない「いいね」「かわいい」で
使い捨ての自尊心を守る。

知らない人に聞かれる。
「ねぇ、いくら?」
自分に値段がつくことを知る。
年を取ったら 値下げされるのかな。

生じゃないのは分かっているけど、生が美味しいとは限らない。

私の生は、あなたの生。
私の生は、
あなたの声が空気の粒を伝って
私の鼓膜を揺さぶること。

生が美味しいとは限らない。
それでも、
私の生は、私の生。
でかい袋を担いで、
ビルをのぼる。
屋上から、大事にしていた星たちを全部ばらまく。

じっとしていない
今の今の生に言う。

おはよう、私。



(aychan)